【美容オイル作成】化学メーカーの現役研究員が彼女のためにフェイシャルオイルをガチ作成 〜第一章:ベースオイル組成の作成〜

化学者のDIY
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本記事のフェイスオイルは、クラウドファンディング『Kibidango』にて資金調達を行い、商品化することにしました(詳しくはこちらをご覧ください)。

現役化学研究員がヒトの皮脂を再現したオイルを作る

化学メーカーで研究員として勤務する吉沢が、敏感肌彼女のために本気でデパコス越えのフェイシャルオイルの作成に挑むプロジェクト。本章では、美容オイルの組成を考察 & 作成します!

なお、序章から第三章までは以下のリンクからお読み頂けます。

最初に結論だけ言うと、決定したベースオイルの組成は『ホホバ種子油 25%, スクワランオイル 10~15%, マカダミアナッツオイル60~65%』です。

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ベースオイルの作成指針と皮脂組成

序章にて、美容オイルは皮脂の役割を担うとお話しました。つまり、「皮脂の組成を皮脂以外の材料を使って再現する」ことが今回の目的となります。

さて、具体的なオイルの設計に入る前に、

  1. なぜ皮脂に近い組成が良いのか?
  2. 酸化安定性に注意が必要

というお話をしたいと思います。

①なぜ皮脂に近い組成が良いのか?

ずばり「角質層への馴染みが良く肌表面に広がりやすいから」です。オイルが保湿性を発揮するためには、肌の表面に均一に広がって油膜を形成する必要があります。

均一な油膜を形成するためには、角質層への馴染みが良い必要があります。つまり「皮脂に近い→馴染みやすい→均一な油膜を形成→保湿効果を発揮」という理屈です。

吉沢

均一にぬれ広がって蓋をするってイメージ

②酸化安定性に注意が必要

皮脂には酸化しやすい成分 (特にスクアレン) が含まれています。皮脂は酸化すると悪臭を放つだけでなく、毛穴の詰まり&黒ずみの原因にもなります。

なので、酸化は極力避けたい現象になります。したがって、今回の真の目的は『皮脂に近い組成だが、酸化はしにくいオイルの作成』となります。

吉沢

化学者吉沢は、構造をみれば酸化しやすいかどうか大体見当がつくよ!
(電化密度の高い、HOMOエネルギーレベルが高い分子は酸化されやすい)

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皮脂の組成とワックスエステル・スクワレン

さっそく、皮脂の組成を確認していきましょう!吉沢が調査した皮脂の組成がこちら↓

参照1:ウィキペディア
参照2:D.T. Downing, J.S. Strauss, P.E. Pochi, J. Invest. Dermatol., 53, 322 (1969) ※平均値
参照3:ヒト皮脂の量とその変動についてhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/sccj1976/12/2/12_2_29/_pdf/-char/en
参照4:NLBA
参照5:化粧品成分検定 公式テキスト

上記に表から、人の皮脂はざっくりと以下の構成であることが分かります。

  • 約25%のワックスエステル
  • 約10~15%のスクワレン
  • 60%程度の脂肪(酸)類

なので、ワックスエステル・スクワレン・脂肪(酸)類を天然の成分で代替すれば良いわけです。それぞれについて、どんな材料を使用すれば良いか見ていきましょう!

ワックスエステルに関して

実は、天然の液状ワックスエステルは基本的にホホバ種子油しか選択肢がありません
(蜜蝋、カルナバ等のワックスエステルもありますが全て個体です)

従って、半自動的にホホバ種子油を25%使うことが決まります。ホホバ種子油は酸化安定度も高いため、ホホバ種子油で問題ないと判断しました。

吉沢

ホホバ25%!決定!

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スクワレンに関して

スクワレンのお話をする前に、スクワレンの構造式をお見せします↓

スクワレンの構造式

構造式の中で、一本線でつながっている部分は一重結合、二重線になっているところを二重結合といいます。

2重結合が6つもある!

スクワレンには赤丸で囲ったように、二重結合が6箇所もあるのですが、この二重結合は酸化しやすい性質を持っています。

吉沢

2重結合は電子の密度が高くて酸化されやすいんだよ

つまり、スクワレンは非常に酸化しやすくそのままでは使えない、ということになります。

では、どうするのかというと、スクワンを使います。店頭でスクワランオイルを見かけたことがある人もいると思います。実は、スクワンはスクワレンの2重結合を全て無くしたものなんです。

スクワランの構造

これなら酸化する心配もなく、安心して使えます!※ちなみに、スクワランは蓋 (水分の蒸発抑制) をする作用が高い成分になります。

ということで・・・

吉沢

スクワランオイル10~15%!決定!

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脂肪(酸)類に関して

最後に脂肪(酸)類に関して見ていきましょう。美容オイル作成にあたってここが一番の山場でした。長丁場になりますが、最後までお付き合いください。

脂肪類の基礎知識

最初に、脂肪の基礎知識について簡単におさらいします。脂肪は3つの脂肪酸とグリセリンが繋がった構造をしています。図にするとこんな感じ↓

脂肪は3つの脂肪酸とグリセリンが繋がったもの

この脂肪酸にはいろいろ種類があります (ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などなど・・・)つまり、いろんな種類の脂肪酸から3個選んでグリセリンと繋げたものが脂肪と言えます。

吉沢

食事でよく聞くオメガ3とかオメガ6は、この脂肪酸のことを言っているんだね

例えば、オレイン酸&リノール酸&パルミチン酸を使った脂肪はこんな感じになります↓

オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸で構成された脂肪

気になる人のために構造式にするとこんな感じです↓

オレイン酸、リノール酸、パルミチン酸で構成された脂肪 構造式 Ver

ということで、皮脂の脂肪類を再現するためには、下記の手順が必要です。

①人の皮脂に含まれる脂肪類の内『どの脂肪酸がどれくらい含まれるかを確認』する。

植物オイルを混ぜ合わせて脂肪酸の割合を再現する。

吉沢

めちゃくちゃ大変だよね・・・

人の皮脂中の脂肪の脂肪酸組成と、植物オイルの脂肪酸組成

ということで、皮脂の脂肪と植物オイルの脂肪酸組成をまとめました↓

参考1 http://www.yamakei.jp/shibousansosei.html
参考2 https://www.kaneda.co.jp/jigyou/oils_composition.html
参考3 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jos/68/7/68_ess18234/_pdf/-char/en
参考4 https://www.timeless-edition.com/archives/1758
参考5 https://www.summit-oilmill.com/product/argan-oil/
参考6 https://cosmetic-ingredients.org/base/%E9%A6%AC%E6%B2%B9%E3%81%AE%E6%88%90%E5%88%86%E5%8A%B9%E6%9E%9C%E3%81%A8%E6%AF%92%E6%80%A7/
参考7 https://cosmetic-ingredients.org/base/%E3%82%B7%E3%82%A2%E8%84%82%E3%81%AE%E6%88%90%E5%88%86%E5%8A%B9%E6%9E%9C%E3%81%A8%E6%AF%92%E6%80%A7/
参考8 https://ameblo.jp/rik01194/entry-12582610612.html
参考9 http://www.ccn.aitai.ne.jp/~t_kato/syokuhin/sibosan2/houwa/plmitn.htm
参考10 https://dictionary.jlia.or.jp/detail.php?id=1703

この中で、皮脂の再現に使えそうなオイルや、話題性があり気になったオイルは以下の5種類↓

  1. パーム油
  2. 馬油
  3. アルガンオイル
  4. 椿油
  5. マカダミアナッツ油

それぞれ順に見ていきましょう!

①パーム油

皮脂の脂肪酸に比べてパルミチン酸が多く、パルミトレイン酸とオレイン酸がやや少ない脂肪酸組成です。単品での組成はなんとも言えないですが、後述のマカダミアと合わせて皮脂を再現できると考え、候補に抜擢しました。

②馬油

皮脂の脂肪酸に比べてオレイン酸がやや少なく、α-リノレン酸がやや多いと言った組成。単体のオイルで考えるなら、馬油が皮脂に一番近い脂肪酸組成だと思います。

吉沢

よく “人に近い” と宣伝されるけど、納得だね

ただ、酸化しやすいα-リノレン酸が多いことと、他の油脂を適度に混合すれば馬油より皮脂に近い組成を作れることから、今回は候補外になりました。

③アルガンオイル

モロッコ原産で有名なアルガンの油。高級油として認知度が高い油なのでピックアップしました。皮脂と比べると、パルミチン酸・パルミトレイン酸が少なく、リノール酸がかなり多い (32.6%) 組成となっています。

吉沢

ちなみにアルガンオイルの実態はこちらの記事で追求してるよ!

リノール酸 (二重結合が2つ) は酸化しやすいので、アルガンオイルは脂肪酸組成的には酸化に弱いことがわかります。(自動酸化速度がオレイン酸の約10倍)

吉沢

アルガンオイルはビタミンE含有量が多いから酸化に強いという宣伝文句をよく聞くけど、脂肪酸組成的には微妙なオイルだね〜

以上、アルガンオイルはもちろん候補外になりました。

④椿油

皮脂の脂肪酸に比べてパルミチン酸、パルミトレイン酸が少なく、オレイン酸がかなり多い脂肪酸組成です。オレイン酸は保湿力があり酸化安定度も比較的良好なので、脂肪酸組成としては優秀だと思っています。

吉沢

組成はすごくいいよ。ニオイが気になるけど(笑)

よく髪用に椿オイルが勧められていますが、大変納得できます。イソップなどの高級フェイスオイルも、後術のマカダミアか椿がベースのことが多いです。

ただ、今回の趣旨は皮脂に近いベースオイルを作ることなので候補外となりました。

⑤マカダミアナッツ油

皮脂の脂肪酸に比べて酸化しやすいリノール酸が少なく、比較的酸化に強いパルミトレイン酸とオレイン酸が多い組成です。単品で使うにも非常によい脂肪酸組成だと思います。

吉沢

あまりの秀逸さに驚いたよね

前述のパームと混ぜると皮脂にそっくりな脂肪酸組成が作れるので、候補に選抜しました!

吉沢

単品で使うのにはマカダミカ&椿、混ぜものにはパーム、人に近いのは馬油って感じ

皮脂の再現と決定

さて、皮脂の脂肪酸を再現するためにパームとマカダミアを選抜しました。そのパームとマカダミアを 1 : 1 or 1 : 2 で混ぜた時の脂肪酸組成がこちら↓

なんとパーム:マカダミア=1:1の混合で、皮脂の脂肪酸組成とほぼ同じ組成にできます。棒グラフにするとこんな感じ↓

皮脂の脂肪酸組成とパームマカダミア混合油脂の脂肪酸組成比較

これは、、、素晴らしい再現度・・・ここまで忠実に再現したオイルが市販にあるだろうか?

吉沢

ほぼ皮脂になっちゃった(笑)

さて、最も皮脂に近い組成はパーム:マカダミア=1:1でしたが、リノール酸を少なめ&パルミトレイン酸を多めにしたいことから「パーム:マカダミア=1:2をベース組成」にしました。

吉沢

リノール酸は酸化が気になるからね。

早速マカダミアとパームを楽天でポチリ。大容量ならこれ↓

優秀な脂肪なだけあって、マカダミアオイルめっちゃ高いですね(泣)

七瀬

・・・高すぎ!!

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ベースオイル決定

以上皮脂の組成とその代替材料をまとめると、以下のようになります↓

・約25%のワックスエステル ⇨ 25%のホホバオイル
・約10~15%のスクワン ⇨ 10~15%のスクワ
・残りの脂肪(酸)類 ⇨ パーム:マカダミア=1:2

ということで・・・・

ベースオイルの組成はホホバ種子油 25%, スクワランオイル 10%, マカダミアナッツオイル44%, パーム油21%で決定!

※後日談で覆りました。

このベースオイルに香りを付加する「第ニ章〜香りの設計〜」へ続きます。

▼続編はコチラ

後日談

フェイスオイルの使用を続けたところ『お肌の弾力が上がってぷるぷるになる』効果を実感しました。どうしてこんなにぷるぷるになるのか?と気になり、その正体を詳しく調べました。

七瀬

なんだか肌の弾力が凄いんだよね

結果、ぷる肌の正体は『マカダミアナッツオイルに含まれるパルミトレイン酸』と判明。

パルミトレイン酸は、若い人の皮膚には多く含まれる脂肪酸であり加齢と共に減少します。
それを補うことで若い人のようなぷるぷる肌になっていた。ということの様です。

吉沢

そんな副産物が!

パームを抜いてマカダミアにすればもっとプルプルになる?と考え、早速試しました。ホホバ種子油 25%, スクワランオイル 10〜15%, マカダミアナッツオイル60~65%

・・・・・・!!!!これは!!!!!!

上記の経緯から、ベースオイルは『ホホバ種子油 25%, スクワランオイル 10~15%, マカダミアナッツオイル60~65%』に決定したのでした。

参考1:http://www.ecology-com.co.jp/macadamianuts_oil/tokutyou.html
参考2:https://www.jstage.jst.go.jp/article/dermatol/101/13/101_1641/_pdf/-char/ja

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本オイルを一般の人にも使って貰いたいと思い、クラウドファンディングでの商品化を検討しています。是非、フォローして頂けたらと思います。

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